今年の7月から8月の気象(2025年9月・会報129号)

 猛暑と水不足で辛い夏になりました。各地で大雨の被害が出る中、鎌倉だけは、7月18日以来、まとまった雨がありません。8月下旬の時点では、田んぼの水が枯れて、ひび割れができている状態です。40年近く谷戸の田んぼを見ていますが、これほどの水不足は経験したことがありません。昨年以上の猛暑で全国的に40度近い気温が当たり前になっています。鎌倉は涼しい方ですが、33度を超えると作業が厳しいです。猛暑の影響なのか、アオマツムシ(木の上でリーリーとうるさく鳴くコオロギの仲間)が例年より一週間ほど早く鳴き始めました。

●7月から8月の谷戸でよくなったこと心配なこと

8月のインセクトホテル
インセクトホテルに幼虫の餌を運ぶ
狩バチの一種

よくなったこと 今年から設置した「インセクトホテル」に虫たちが入居しています。写真のように、竹筒や丸太にあけた穴にハチが巣作りをした後、穴をふさいでいます。人を刺すハチではなく、アオムシやクモを幼虫の餌にするために、穴に運びこむ「狩バチ」と言われているハチの仲間です。昨年あたりから、谷戸の生きものが急激に減少していますが、タマムシ、コクワガタが増えているように感じます。近年のナラ枯れ(コナラの木が枯れていく現象)で、弱った木や枯木が増えたため、幼虫が育ちやすくなったのかもしれません。

心配なこと 今年の夏はセミが少ないと言われています。ヒグラシ、アブラゼミの鳴き声が少ないです。幼虫が育つのに数年かかるので、近年の猛暑の連続が、セミの幼虫に影響を与えたのかもしれません。もしそうならば、来年もセミが少ないかもしれません。

●草取り、草刈りと昆虫

ショウリョウバッタモドキ
コバネイナゴ

 夏は草との闘いですが、谷戸の田畑で作業することが自然保護につながります。市内ではほとんど見られなくなったコオロギやバッタ、例えば、タンボコオロギ、ヤチスズ、クマコオロギ、コバネイナゴ、ショウリョウバッタモドキ、クルマバッタなどが生息しています。これらは、昔からある里山の田畑にしか棲んでいません。家庭菜園や畔をコンクリートで固めた田んぼ、ビニールで覆われた畑では守れないのです。谷戸が鎌倉中央公園として整備されるとき、元からある田畑を残すことができたこと、市民が参加して、昔ながらのやり方で農作業を続けたことが貴重な虫を守っています。コオロギやバッタは、畑や畔に、足首より低い草がはえている場所で暮らします。多少は除草が行き届かないこと、土手の草を刈った後にまた草が再生してくることが、無駄なようでも実は生きものを守ることにつながっているのです。

今年の5月から6月の気象(2025年7月・会報128号)

アマガエル

 五月晴れの日が少なく、連休が終わると梅雨のような日が多くなりました。6月半ばには早くも梅雨明けのような猛暑の日がありました。本来、早春~初夏は3月~6月上旬まで続くはずですが、今年は4月の1カ月で終わってしまった感じです。6月下旬の時点では、空梅雨による田植え後の水不足と、猛暑による熱中症が心配な状態です。

●5月から6月の谷戸でよくなったこと心配なこと

シュレーゲルアオガエル
ニホンミツバチ

よくなったこと  今年は湿地のオギやアシの生育がよく、長年悩まされたカナムグラやクズは少なめのようです。ようやく湿地らしい景観が戻ってきました。ツルの除去方法や時期を以前と変えるなど、作業の成果が出てきたように感じます。カルガモの食害を防ぐため、ネットで保護したアカガエル類のオタマジャクシが順調に育ちました。餌(煮干しとキャベツなど野菜を煮たもの)を与えたせいか成長が早まり、6月中旬には一斉にカエルに育ちました。5月に産卵するシュレーゲルアオガエルとアマガエルのオタマジャクシが、カルガモの食害で全滅しないか危惧していましたが、何とか育っています。田植え後は、稲株がオタマジャクシをカルガモから守ることにつながっているようです。

モンスズメバチ

心配なこと  ミツバチの巣箱を設置して、在来のニホンミツバチを増やそうという提案がありましたが、ミツバチが谷戸から姿を消しているようです。今年はまだ一度も見ていません。スズメバチやアシナガバチは少ないながらも見かけるのですが、

キアシナガバチ
ホオジロ・オス

ミツバチは激減しているようです。春から引き続き、シオカラトンボ類の減少が顕著です。オタマジャクシの保護でネットをかぶせた田んぼにゲンゴロウの幼虫が見られたので、カルガモの食害が田んぼの生きもの全体に影響しているかもしれません。野鳥にも変化が出ています。春になるとスズメが、ヒナの餌を運ぶため谷戸に出入りしていたものですが、ここ数年、谷戸で姿を見なくなりました。住宅構造の変化で、スズメの巣が減っているのでしょう。

ホオジロは里山を象徴する野鳥ですが、最近は姿を消しました。谷戸の環境は変わらないのに不思議でなりません。

3月から4月の谷戸の自然の様子(2025年5月・会報127号)

 寒暖差が激しく、雨が少ない冬でしたが、生きものにも大きな影響がありました。2月に雨が降らなかったため、アカガエル類の産卵に適した日

ニリンソウ

が少なく、産卵量は昨年の3分の2にとどまり約200個でした。それでも数年前は100個程度だったので、アカガエルの

ウラシマソウ

オタマジャクシをネットで保護している成果が出ていると思います。その後、保護したオタマジャクシを、春休み中に大量に盗られる事件が起きました。市内の他の里山でも同じような事件が起きています。心ない大人の仕業でしょう。ヒキガエルは、昨年は産卵しなかったのですが、今年はわずかに産卵しました。2月

雨が少なく、3月に真冬のような寒さがもどったことが植物に悪かったようで、ヤマザクラに先駆けて咲くキブシの花が遅れただけでなく貧弱でした。野草の花も咲く時期が遅れ、3月に咲くはずの早春の花が、

サラシナショウマの芽

月になってやっと満開をむかえました。

●3月から4月の谷戸で「よくなったこと」「心配なこと」

ヤマユリの芽

 2年ほど前から、谷戸の生きものが急激に変化しているのを感じます。よくなったこと、心配なことをお伝えしたいと思います。

「よくなったこと」谷戸に昔はあって今はない、ニリンソウという野草が少しずつ増えてきました。3月に大船中学の生徒さんにササを刈ってもらいましたが、ウラシマソウが増えて一面に花が咲いた場所があります。田んぼの山側の散策路沿いにヤマユリやサラシナショウマなど、貴重な野草が芽生えています。道沿いや山の斜面を刈ったためでしょう。帰化植物のナガ

シオヤトンボ

ミヒナゲシを駆除した成果が出て、今年はほとんど見かけなくなりました。最近設置したインセクトホテルに早くもハチがやってきて子育てを始めています。竹筒を出入りしている様子を観察しました。

「心配なこと」桜が散る頃に現れるシオヤトンボをほとんど見ません。シオヤトンボはシオカラトンボによく似たトンボで、春から初夏にたくさん見られます。他所ではあまり見かけない谷戸ならではのトンボですが、減っているようで残念です。タンポポの花

ヤブキリの幼虫

で花粉を食べるヤブキリ(キリギリスの一種)の幼虫が非常に少ないようです。シオヤトンボもヤブキリも2年くらい前から急に減ってきました。谷戸の畑で見られるトウダイグサという野草が減っています。今年は炭焼小屋西の中段の畑だけで見つかりました。現在、市内では谷戸の畑以外ほとんど見かけない野草です。

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