谷戸のカエルと現状その1 (2022年3月・会報108号)

カエルは谷戸の王様 谷戸には、今の鎌倉では珍しくなった里山の生きものが暮らしています。その代表がカエルでしょう。田舎に行けばカエルはたくさんいると思っている人もいるでしょうが、近年は、林に囲まれた小さな田んぼが次々に放棄され、谷戸の田んぼのように多くの種類のカエルが棲んでいる田んぼは貴重になってきました。何より、公園の中の田んぼでカエルの保護をしている例は全国的に珍しいでしょう。

谷戸のカエル 谷戸には、ウシガエル、ヒキガエル、モリアオガエル、ヤマアカガエル、ニホンアカガエル、シュレーゲルアオガエル、アマガエル(以上、大きさ順)の7種類が生息しています。そのうち、ウシガエルは大正時代にアメリカから食用のため、養殖の目的で輸入されたものが逃げ出し野生化したものです。モリアオガエルは数年前に、誰かが県外から市内の長谷、極楽寺地区に持ち込んだ個体が谷戸にも広がってきました。その他、幻のカエルとして、ツチガエル(20年ほど前に絶滅?)とトウキョウダルマガエル(数年に一度見つかる)がいます。

早春のカエル暦 2月に雨が降ると、寒さがゆるんだ夜、田んぼでアカガエルがキャララと鳴きながら産卵を始めます。3月のひな祭りが過ぎるころ、ククク、コココと小さな笑い声のような鳴き声が聞こえたら、ヒキガエルが集まっているのかもしれません。湿地の水たまりに集まり、ヒモのような卵を産みます。春のお彼岸になるとキリリコロロという声で、田んぼがにぎやかになります。シュレーゲルアオガエルが山から下りてきたのです。谷戸では田んぼの農作業の始まりを告げる声です。田うないが始まる連休のころには、谷戸の畔に泡のような卵塊が見つかります。

カエルは注目したい生きもの カエルは鳴き声や卵、オタマジャクシが目立つので増減がわかりやすいです。産卵場所やオタマジャクシが育つ環境が決まっているので保護対策をとれますが、裏をかえせば、少しの環境変化で絶滅しやすいとも言えます。会の発足以前から、昔ながらの田んぼの継承や湿地の水たまりを保全するなど意識的に保護してきましたが、カエルが減少(アカガエル類は3分の1)しつつあるのが現状です。ここ数年の保護活動と経過観察でその要因が見えてきたので次号でお伝えいたします。

最近の谷戸の林から感じること2 (2022年1月・会報107号)

 自然が豊かな公園(緑地)にするには里山の手入れが欠かせません。里山では木を切ることが大切です。日当たりをよくすることで、作物のできがよくなるだけではなく、植物の種類が増えて昆虫や鳥獣も棲みやすくなります。しかし近年は、散策路沿いの木が育って日陰になり植物が減っています。公園内で木を切ることに批判的な人もいますが、昔の里山では「木障切り(こさぎり)」といって、農道(今は散策路)と雑木林の間の斜面を上の方まで刈りこんでおり、そこにヤマツツジやヤマユリなど花を咲かせる植物がたくさんあったようです。実際に当会で、数年前に田んぼの南側の斜面を「木障切り」したところ、現在はその付近の道沿いにヤマユリなどの野草が増えており、その効果を確認しています。植物調査をしていると、ヒガンバナ(人が植えないと増えない植物)の葉を斜面の上で見つけて驚くことがあります。今は木の陰で花を咲かせることがないヒガンバナですが、かつては明るい斜面だったことは間違いありません。昔のように斜面の木をもう少し切れば、植物が多い楽しい散策路が復活することでしょう。散策路沿いの大きな木は倒れると危険でもあります。木を切ることで、昔の里山の豊かさを今の谷戸で再現できればと思います。

●谷戸の自然の様子 

 谷戸の雑木林にはイロハモミジという野生のモミジがあります。他の紅葉よりも遅くに色づきますが、正月頃まで散らずに残っていることもあります。近年、種から発芽したばかりのイロハモミジの幼木が目立つようになりました。将来は鎌倉がモミジで有名になるかもしれません。谷戸には、田畑周辺の草地や湿地があるので、越冬に来る野鳥が多いのですが、今年もカシラダカ(漢字だと頭高と書きます)というスズメに似た鳥が、群でシベリアからやってきました。木に止まっていても枯れ枝と同じような色なので、なかなか見つかりませんが、数十羽の群れが滞在しているようです。田畑減少や里山の荒廃で、市内ではほとんど見られなくなった貴重な野鳥です。

最近の谷戸の林から感じること(2021年11月・会報106号)

 近年、災害が多発して、がけ崩れや倒木が多くなりました 一昨年からはナラ枯れ病の流行でコナラの大木が枯れています。林の荒廃を嘆く声も聞かれますが、雑木林が若返るよい機会と感じます。倒木の処理が大変ですが、生態系から見ると、倒木や枯れ木が出た後の草木の再生の様子が気になります。木が倒れたり枯れると日当たりがよくなって草木が生えてきますが、そのまま昔のような雑木林になるわけではありません。カラスザンショウやアカメガシワなどの落葉樹が真っ先に生えてくる場合が多いようです。これらは昆虫や野鳥にとっては役立つ木ですが、倒れやすい木なので放置すると危険なこともあるのです。倒木の跡地を放っておいたままでは、昔の雑木林で大切にされてきたクヌギや、鎌倉の雑木林の特徴であるヤマザクラは育ってきません。昔の人は役立つ木を育てるために、その他の木は畑の雑草を抜くように除去してきたのでしょう。これからは、倒木の跡地を手入れしてクヌギやヤマザクラの苗を植えるなどの作業も大切なのではないでしょうか。また、緑地によっては荒廃した竹林の手入れや伐採が進められており、同じような状況になっています。現在の鎌倉では、荒れた雑木林の手入れを広範囲で実行することが難しい現実がありますが、倒木跡地やナラ枯れの周辺部から雑木林を再生することも考えてみてはどうでしょうか。生態系班でも倒木跡地の観察調査を進めていきたいと思います。

●谷戸の自然の様子 

 例年、お彼岸には赤トンボ(アキアカネ)が高原から谷戸(里山)に下りてきて、稲刈りが終わった田んぼで産卵しますが、今年は10月上旬になっても姿をほとんど見かけず心配です。今年は、赤トンボが来るのが遅れているのか。それとも極端に少ないのか?この会報が読まれる頃には答えが出ていることでしょう。赤トンボと同じく、稲刈りの頃、山から谷戸に下りてくる野鳥として有名なモズも、今年は鳴き声をあまり聞きません。近年減少していると言われていますが、その影響でしょうか。

秋の花の咲く場 所(2021年9月・会報105号)

 鎌倉市内でも、谷戸は多くの野草が密集している場所です。昔からの里山と耕作をやめた場所が混在しているからでしょう。谷戸の会の各班で、草刈りの仕方が違うことが、さまざまな野草が見られることにつながっています。中でも手入れ(草刈り、田んぼの耕作)をしないと消えてしまう里山の植物が生き残っているのが谷戸の特徴です。9月になると、よく刈られた田畑の土手で、ツリガネニンジンやワレモコウなどがちらほら咲き始めます。お彼岸の頃には、ヒガンバナや湿地のミゾソバが咲き始め、10月上旬は湿地(田んぼの跡地)が花畑のようになります。10月半ばには、ススキによく似たオギの穂が風にそよぐようになります。また、広場や散策路沿いには、コブナグサやチカラシバなど谷戸以外ではあまり見られないイネ科の花や、サラシナショウマ、トリカブトなど市内では少なくなった野草も見られます。これらの公園管理作業で駆除されやすい野草を保護することも行っています。

●谷戸の自然の様子 心配なこと、驚いたこと

 毎年、たくさんの樹液を出す木は数本しかありませんが、今年から樹液がほとんど出なくなりました。隣の台峰緑地も同じ状況です。カブトムシなど樹液に集まる虫には大打撃でしょう。もう一つ、ジョロウグモの巣が激減しているのが気になります。ジョロウグモは散策路沿いや人家の周辺に大きな網をはるクモです。夏から秋には数メートルおきに巣があるのが普通ですが、今年は探さないと巣が見つからないほど減少してしまいました。数年前からヤブカが少なくなっていますが、クモのエサになる小さな昆虫が減っているのが原因かもしれません。生態系の底辺で異変が起きているのでしょうか?7月下旬に沖縄のチョウが突然現れ驚きました。アオタテハモドキというきれいなチョウです。雄と雌が見つかり、8月下旬まで何回も目撃されているということは、偶然に飛んで来たチョウではなく、人が放しているのではないかと思われます。40年ぶりに復活したトンボもいます、8月25日、コシボソヤンマが産卵している様子を観察、撮影しました。1980年代に隣の台峰緑地で記録がありますが、成虫の確実な記録は長年途絶えていました。

秋の自然は梅雨時の作業で作られる(2021年7月・会報104号)

 梅雨時は草との闘いです。梅雨時に草を刈るとすぐに再生して秋に花を咲かせますが、8月に刈ると再生力が弱くなるので、種類によっては花が咲かずに終わってしまいます。畑の草取りも梅雨時に一度しておくと真夏の草取りが少し楽になります。梅雨時はバッタやコオロギ(秋の鳴く虫)の幼虫が生まれ育つ季節です。草刈りや草取りをした後に出てくる柔らかい芽が、バッタやコオロギの幼虫の生長によいのかもしれません。草木が伸び放題になった緑地は、案外、生きものが少ないのです。昔の農作業の暦に合わせた草刈りが里山の生きものを支えています。また、谷戸の湿地(田んぼをやめた後のアシ原やオギ原)も梅雨時にツル草(クズやカナムグラなど)を除去することで、秋には花畑になります。以前は夏にツルを取っていたのですが、梅雨時に取ることで成果があがるようになりました。秋の準備は梅雨時から始まっています。

谷戸の様子

 相変わらず季節が10日ほど早く進んでおり、例年6月中旬に多くなるゲンジボタルが、今年は6月の上旬にピークを迎えました。ホタルを観察していて気になったのが、モリアオガエルの鳴き声です。昨年までは所々で鳴いている程度でしたが、今年は全域で鳴いており、アマガエルと同じくらいにぎやかでした。一方でアマガエルの声が減った気がします。モリアオガエルは元々鎌倉にはいなかったカエルです。元から棲んでいるアマガエルやシュレーゲルアオガエルに悪い影響がないか心配です。
 昨年からコナラの木を中心に“ナラ枯れ”が話題になっています。カシナガキクイムシという小さな甲虫の幼虫が、コナラの内部を食い荒らして木を弱らせます。昨年の被害のひどさから多くのコナラが枯れると予想されていましたが、弱ってはいるものの枯れないで残っているコナラが多く、それほど被害が目立ちません。幼虫が開けた穴から樹液が出るらしく、樹液を出すコナラが増えたように感じます。近年は樹液を出す木が少なくなり、クワガタムシなどが減っているので、昆虫のためにはありがたいことです。とはいえ、弱っている木がいつまでもちこたえられるでしょうか。自然がすることには無駄がないはずなので長い目で観察したいと思います。

外来種(帰化植物など)と谷戸(鎌倉中央公園)(2021年5月・会報103号)

 農村にある本来の里山とは違い、宅地に囲まれた谷戸(鎌倉中央公園)のような里山では、さまざまな問題が起きます。中でも外来種(帰化植物など)の侵入は大きな課題です。昔からある野草や生きものを追いやってしまうなどの被害を与えてしまうからです。近年、谷戸で増えている外来種として、ヒメオドリコソウ、ナガミヒナゲシなどが挙げられます。5月初めには種子を散らしてしまうことや、草丈が低くてほかの野草や作物の間に埋もれるように咲いているので、草刈りでは対応できず、面倒でも手作業で除去することが必要になります。昔ながらの田畑に帰化植物が侵入しては、生態系として残念です。一方、外来種(帰化植物など)が昆虫や野鳥の食料(ハルジオン、セイタカアワダチソウ、アメリカザリガニなど)として生態系を豊かにしている面もあり、さまざまな見方があります。地域によって対応を変えるべきでしょう。個人的には、①近年(過去30年くらい?)急激に増えている種類(ウラジロチチコグサ、ヒメオドリコソウ、ナガミヒナゲシ)、②他の生きものへの影響が顕著な場合(アカミミガメ、トキワツユクサなど)などを基準に考えています。大部分の外来種(帰化植物など)は①②に該当しないので、生態系班では、限られた作業力を問題の多い数種類に集中しています。

谷戸の様子

 3月から初夏のような陽気が続き、季節が半月ほど早く進んでいます。3月末にはサクラが散り始めました。4月上旬にアゲハチョウの仲間など、4月下旬に現れるはずの虫たちが姿を見せています。生態系保全班では、減少傾向にある、アカガエル類やヒキガエルのオタマジャクシを保護していますが、今年は湿地に作った保護区から、ヒキガエルの卵が盗まれる事件が起きました。保護区をこわし、水を抜いて盗んでいったので、残った卵も干上がる寸前でした。雑木林でもラン類が盗まれてなくなっているのを確認しました。残念なことですが、カエルにせよ、野草にせよ、田んぼや雑木林の維持作業で生息地を存続させて復活を期待することが基本でしょう。加えて、卵やオタマジャクシの保護、野草苗の育成など、それぞれ工夫して対応していきたいと思います。