真冬から早春 (2011年3月・会報42号)

1月は、ほとんど雨が降らず、冬らしい天気が続きました。猛暑の年は寒い冬が来るという言い伝えどおり、日中になっても厚い氷が溶けず、つららもできました。2月になって雪が降り、わずかな雪景色が見られました。雨や雪が降るのは春が近づいた証拠です。乾燥した天気が続き、今年はアカガエルの産卵が遅れています。木の実が不作で餌が足りないのか、タイワンリスが樹皮をかじる被害が出てきました。特筆したいのは、タシギというハトくらいの大きさのシギが3~4羽、谷戸の田んぼや湿地に来ていることです。タシギそのものは特別珍しい野鳥ではありませんが、山崎の谷戸では非常に稀です。

~タンポポとブタナ~

タンポポという名前は幼児語から来ているとか?春野原のと子どもたちのイメージがあります。西洋タンポポ(外来種)と日本タンポポ(鎌倉は関東タンポポ)、白花タンポポの3つに大別できます。西洋タンポポはたいてい小さくて平たく、街中の道端で秋まで咲いています。日本タンポポは大きくて20~30cmの草丈があり、土手や山道沿いで4.月頃にたくさんの花を咲かせます。白花タンポポは、西日本に多いタンポポといわれていますが、最近はなぜかほとんど見かけなくなりました。
ブタナをご存知でしょうか。谷戸では寺分口への階段沿いの石垣の間からたくさん生えています。花の茎が長くて、ひょろひょろしていて、花はタンポポそっくりですが、牧草として日本へ入ってきた外来植物です。しかし分布を広げる気配はなく、今はうぐいす山住宅地のきつね塚公園などで見かけるくらいでしょうか。

都市化が進むと、西洋タンポポが増えて日本タンポポが減るといわれていますが、谷戸では公園として整備された後も、昔ながらの畑の土手に日本タンポポが健在です。一方西洋タンポポは、芝生を張った場所に一時爆発的に増えましたが、なぜか土手には浸入していません。意外なのは田んぼの畔にわずかですが西洋タンポポが入っていることです。
 背の低い西洋タンポポは土がむき出しになったような場所を好み、土手のように草が20~30cm伸びている場所には入り込めないようです。畔は草丈を低く刈り込むので入りやすいのかもしれません。西洋タンポポが急に増えてきたら刈り過ぎの目安になると思います、畑の土手は5月下旬から梅雨時に刈るので、4月に咲く日本タンポポは花を咲かせ実を結ぶ機会があるのでしょう。タンポポの花にも草刈りの時期や刈る回数が関係しているのです。

 背の低い西洋タンポポは土がむき出しになったような場所を好み、土手のように草が20~30cm伸びている場所には入り込めないようです。畔は草丈を低く刈り込むので入りやすいのかもしれません。西洋タンポポが急に増えてきたら刈り過ぎの目安になると思います、畑の土手は5月下旬から梅雨時に刈るので、4月に咲く日本タンポポは花を咲かせ実を結ぶ機会があるのでしょう。タンポポの花にも草刈りの時期や刈る回数が関係しているのです。

秋から初冬へ(2011年1月・会報41号)

 今年の秋は寒暖の差がはげしかったせいか紅葉がみごとでした。12月になっても気温が高めでしたが、12月3日の未明に台風なみの豪雨と南の強風が吹き荒れ、市内の一部に災害をもたらしました。12月としてはあり得ない天気です。やはり温暖化の傾向でしょうか。

春の七草

 近頃は、野菜売場に春の七草がセットで販売されているとか。毎年1月14日のどんど焼きの日には、七草がゆの材料を集めるのに苦労します。現代の1月は昔の暦では2月のことです。春の七草は早春の陽光の下で伸び始めた野草を摘むのが本来の姿なのでしょう。今の1月7日は真冬の最中で七草摘みの実感は湧きません。やはり季節の暦は旧暦で考えたいものです。

 春の七草も秋の七草も共に里山の植物ですが、春の七草は田や畑の周囲に生え、雑草扱いにされる野草が多いのが特徴です。つまり人間の影響を受けやすい不安定な環境に生える植物なのです。

 谷戸での現状を種類別に紹介してみましょう。
セリ:田んぼの中や湿地に生える田んぼ雑草。今でもたくさん採れる。
ナズナ:畑の周辺に生える畑雑草。畑や空地がなくなって少なくなっている。
ハコベラ(ハコベのこと):畑の周辺に生える畑雑草。在来種のハコベより帰化植物のウシハコベやコハコベが多くなっていることはあまり知られていない。
ゴギョウ(ハハコグサ):ここ数年で激減した野草。よく似た種類のウラジロチチコグサ(帰化植物)の浸入が影響しているのかもしれない。いつの間にか、谷戸ではほとんど見かけなくなってしまった。
スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン):畑の作物なので今でも健在。旧暦で考えると昔はトウ立ちしたつぼみを摘んで食べたのかもしれない。
ホトケノザ(コオニタビラコ):元々ないのか、絶滅してしまったのか、谷戸では見たことがない。市内では広町緑地の田んぼの周辺にわずかに見られる程度。

 春の七草をたくさん摘めるような環境は、今の鎌倉にはほとんどないのが実情です。春の七草を摘みながら谷戸の植物を見守っていきましょう。

秋から初冬へ(2010年11月・会報40号)

 記録的な残暑が続いた9月ですが、9月23日から突然涼しくなり、一日で気温が13度も低下したのには驚かされました。今年の猛暑は作物だけでなく、自然にも大きな影響を与えたようで、ススキなど秋の野草の開花が10日以上遅れたり、早く落葉してしまったヤマザクラが狂い咲きを始めています。台風の被害がなかったことが不幸中の幸いでした。鎌倉の秋の盛りは、体育の日(10月10日)から七五三(11月15日)頃までですが、勤労感謝の日(11月23日)には木々が色づき晩秋を迎えます。クリスマスが近づけば落ち葉の季節、初冬の始まりです

ヒヨドリ

 10月半ば、セミが鳴きやむと、ヒヨドリの声でにぎやかになります。虫から鳥へと自然界の主役交代は鮮やかです。この頃、魚の群のように谷戸の上空を飛びまわるヒヨドリ達は、北日本から移動してきた渡り鳥です。旅の途中のヒヨドリにとって鎌倉の谷戸は翼を休める格好の場所のようで、谷戸の奥に100羽近い群が集結している様子を見かけます。山崎の谷戸では、農家風休憩舎裏のクスノキが格好の集合場所になっており、「ヒーッ、ヒーッ」と鳴き交わす声でにぎやかです。
土地勘に乏しい“よそ者”の集団が食べていくには、畑の作物が手っ取り早いと思うのか、三浦半島ではキャベツを荒らす害鳥として駆除の対象になっています。鎌倉ではナンテンなど庭木の実が、一日で食い荒らされてしまうこともあり、ヒヨドリの評判は悪いのです。とかく、団体で行動するとトラブルを起こしやすいのは、人間も鳥も同じでしょうか。

 山崎の谷戸では、キャベツなど葉物野菜を作らないので、今のところ、ヒヨドリと共存できているのでしょう。この時期、よそ者のヒヨドリの大群に隠れて目立ちませんが、鎌倉育ちのヒヨドリたち
は、大きな群を作ることはなく、「流れ者と俺たちを一緒にするな!」とつぶやきながら別行動しているとか? 山崎の谷戸は宅地に囲まれた“都会の里山”です。生きものたちの“駆け込み寺”であり、
調査してみると、山奥の数倍の密度で野鳥が生息していることが分かります。いわば“生きものにとっても都会”なので、農作物と生きものとの摩擦が生じやすいのは当然といえるでしょう。都市住民が主体となって、限られた面積で生きものと農地の共存を図る試みは、今、始まったばかりです。 

残暑から初秋へ(2010年9月・会報39号)

 今年は早めに梅雨明けし、例年以上に暑い日が続きました。猛暑の合間にゲリラ豪雨が相次ぎ、谷戸では枝が折れたり、木が倒れる被害もありました。今年の夏は、昆虫の数が少ないようです。

 春先の低温が影響しているのでしょうか? 特にアブラゼミの数が少なく、8月になってようやく鳴き始めました。ツクツクボウシは非常に早く鳴き始め、7月下旬から耳にしています。ウスバキトンボ(オレンジ色の赤トンボの一種で、夏休みの頃から群で飛びまわる)が少ないことも印象的です。ここ数年、9月の残暑が厳しい年が続いていますが、秋雨で急に涼しくなる年もあります。今年の秋はどうなるでしょうか。

イナゴ(コバネイナゴ)

 最も谷戸(里山)らしい昆虫は、ホタルやトンボだけではありません。バッタやコオロギの種類の多さに谷戸の豊かさを感じます。谷戸には様々な草地があるのでバッタやコオロギが沢山いるのです。畑、畑の土手、道端、広場、アシ原、畔道、そして田んぼ、それぞれ異なる植物があるので、生息するバッタやコオロギの種類に違いが出ます。中でも谷戸の田んぼは今では稀少な環境なので、そこに棲むイナゴも貴重な存在です。イナゴを食べるなんてとんでもない! 鎌倉のイナゴは絶滅寸前! と言ったら信じてもらえるでしょうか。イナゴに似たバッタは他にも数種類あり、雑木林に多いフキバッタの仲間や、畑の周りにいる、ツチイナゴやイボバッタ、クルマバッタなどがいます。でもイナゴは田んぼの周りにしかいません。野外生活体験広場でもイナゴが見られますが、それは田んぼで増えたイナゴが散らばっているからで、田んぼから少し離れるとイナゴは全く見つかりません。市内の他地域の事例では、田んぼをやめて数年でイナゴが消えてしまいました。田んぼをやめても、草刈りを続けて水を引いておけば、トンボやホタル、他の種類のバッタはかなり生息できるようですが、イナゴが暮らしていくにはイネが欠かせないのかもしません。このような例は他にもあるかもしれず、ビオトープでは代替できない昔ながらの田んぼの大切さを象徴している生きものと言えるでしょう。ちなみにイナゴには羽の長い種類と短い種類があり、ここの谷戸で見られるのは羽の短いコバネイナゴです。

梅雨は2度目の春?(2010年7月・会報38号)

 一年に夏は2回あります。初夏と真夏です。春に生まれた生きものが初夏に活動して子孫を残すように、真夏に活動する生き物は梅雨時に生まれ育っていきます。梅雨は2度目の春かもしれません。5月に見たチョウやトンボが夏休みも飛んでいることはありません。違う個体に入れ替わっているのです。春の田んぼのオタマジャクはアカガエルとヒキガエルですが、梅雨になり、田植えをした後の田んぼのオタマジャクシは、シュレーゲルアオガエルとアマガエルに替わっています。これらは夏休みの始まる頃、カエルになります。6月、梅雨の前半は、初夏の名残が消え、夏の準備が始まる季節。7月、梅雨後半ともなると、セミなど真夏の生きものたちが姿を見せ始めます。

黒いアゲハチョウ、青いアゲハチョウ、黄色いアゲハチョウ

 子どものころ、一度は捕まえたかったのが大きなアゲハチョウでしょう。鎌倉に多いのは、黒いアゲハチョウの仲間で、“鎌倉チョウ”という言葉もあるくらいです。山崎の谷戸では、クロアゲハ、カラスアゲハ、モンキアゲハ、ジャコウアゲハ、ナガサキアゲハなどが見られます。ジャコウアゲハは藤沢や茅ヶ崎のような湘南地域では数少ないのですが、鎌倉では普通に見られます。ここ数年は、温暖化の影響からか、西日本に生息しているナガサキアゲハ(長崎アゲハ)が分布を拡大し、谷戸でも普通に見られるようになりまし。輝くような青緑色のアオスジアゲハは、素早く飛ぶのでなかなか捕れないあこがれのチョウでした。最近、クスノキの植樹が増えたため、街中でもたくさん見られるようになりました。黄色いアゲハチョウには、ナミアゲハとキアゲハの2種類がいます。山崎の谷戸の特徴はキアゲハが多いことでしょう。アゲハチョウのほとんどは、幼虫が特定の樹木の葉を食べて育つのですが、キアゲハはセリの葉を食べて育つので、谷戸のような田んぼや湿地のある環境が最適です。
 7月上旬、他のアゲハチョウよりも早く、キアゲハが谷戸の湿地で飛び始めると谷戸らしい夏が今年もやってきたと感じます

春から初夏へ(2010年5月・会報37号)

 今年の春は寒暖の差が激しく、桜が五分咲きのまま足踏みしたせいか、一斉に咲いて散る、いつもの華やかさがなかったようです。五月晴れに恵まれ農作業がはかどることを期待します。
アオサギが2羽、田んぼに居ついて、オタマジャクシをほとんど食べ尽くすほどの勢いです。今までもカルガモの食害にあってオタマジャクシが激減した年がありましたが、毎年連続しなければ大丈夫です。こうした現象も自然の一部なのでしょう。長い目で考えたいと思います。

カルガモ

 田うないが始まる連休から、田植えが終わる梅雨の初め頃、谷戸の田んぼが生きもので溢れます。5種類ものオタマジャクシ、8種以上のトンボ、そして無数の微生物。この生きものの賑わいの頂点に立つのが野鳥たち。田んぼの畔でのんびり休むカルガモ夫婦は初夏の谷戸の風物詩です。このカルガモ、来園者には人気がありますが、田植えしたばかりの苗を倒したり、オタマジャクシなど田んぼの生きものを食い荒らすので困りものでもあります。泳ぎながら、水面でくちばしをパクパクさせて、口に入るものは何でも呑み込み、掃除機をかけるようにくまなく田んぼを泳ぎまわります。この調子で毎日のように居座られたらどうなるか?まして育ち盛りのヒナを連れていたら?

 10年ほど前、カルガモ夫婦が田んぼで子育てをした時、オタマジャクシやヤゴが1ケ月で激減したので驚きました。それからはカルガモ対策のため彼らの私生活に注目するようになったのですが、雄の責任感の強さにはいつも感動します。カルガモが2羽ならんでいると大きくて白っぽい方が雄のようです。人間が近づくと、首を伸ばして警戒するのは雄で、雌は雄の傍らでいつまでも食べ続けています。もっと近づくと、まず雌が飛び立ってから雄が遅れて飛び立ちます。

 いつも呑気に行動している雌、警戒を怠らない雄のイメージがあります。鎌倉のカルガモはのんびり暮らしているようですが、生活は決して楽ではないようです。その証拠に、少子化現象なのか、繁殖するものが少ないのです。十分な栄養がとれていないのか、子育てに必要な餌資源がないのでしょう。今の鎌倉は田んぼが絶滅寸前ですし、川や池の自然も豊かとはいえません。カルガモには貧しい土地なのかもしれません。カルガモを悪者にする前に、カルガモも人も、のびのび子育てできるような昔の里山を取り戻したいと思います。