谷戸の様子(2023年3月・会報114号)
寒暖の差が激しい冬でした。昨年に続き雪が積もらなかったのは幸いでした(2月20日の時点)。谷戸で越冬する野鳥が少ない年でしたが、市内全般に同じ傾向です。暖かい日が続くと、植物の新芽が動きますが、すぐに寒くなるので、春の野草の花は遅れ気味です。
2月中旬からアカガエルの産卵が始まりました。今年は保護活動の成果が出始めているようで、産卵数が増えそうです。
●小段谷戸と貴重な野鳥
体験学習で使う小さな田んぼがあるのが小段谷戸です。ここは、カシラダカという小鳥の群の隠れ家です。カシラダカは、12月にシベリアから来て冬を越しますが、近年、市内では希な野鳥になっています。草の実を食べるので、緑地(森林)があっても田畑や草地がなくなると暮らせません。警戒心が強いので、人が来ると木の枝に隠れてしまいます。数十羽の群れがいるのに、誰も気づかない忍者のような鳥です。小段谷戸は、餌場になる草地(田んぼ)と隠れ場所になる落葉樹(クリ林)が隣接しているので、カシラダカの群れが安住できるようです。来園者が少ない時は、小段谷戸から行動範囲を広げ、野外体験広場に刈り残された草の実を食べたり、人が入らない湿地で餌を食べている姿も見かけます。谷戸にはカシラダカ以外に、アオジやホオジロなど同じような生態の野鳥がいますが、きれいに(単純に)整備された公園には棲めません。草刈りによってさまざまな野草が生育する田畑の土手、適度に刈り残しのある園路や広場、藪や湿地など、里山の環境と隠れ場所の両方が必要です。谷戸が鎌倉中央公園になってから20年以上たちますが、昔と変わらずカシラダカの群れが来ています。谷戸が公園化されても里山の生きものが保全されているのは、当初の公園計画を大幅に見直して、谷戸の自然を残したことや、その後の保全活動(当会の班活動)が野鳥を守ることにつながっているのです。渡り鳥は毎年同じ場所を往来しているそうです。谷戸の環境を頼りに海を越えて来る鳥たちがいるのでしょう。
谷戸の様子(2023年1月・会報113号)
今年の10月は天候不順で気温が低め、11月は天気がよく暖かい日が多かったです。11月になってから赤トンボが増え、12月になっても産卵していました。季節が1ケ月遅れた感じです。台風の被害がなく10月の低温のためか紅葉がきれいでした。12月7日に初霜がおりました。
●カヤネズミが教えてくれること
カヤネズミは日本最小の可愛いネズミで、カヤ原(ススキの草原)に暮らしています。60年ほど前まで、谷戸の周辺(梶原)は広大なカヤ原だったそうです。カヤ葺き屋根の材料など、里山にはカヤ原がつきものだったようです。その名残か、カヤネズミが谷戸の湿地(ススキに似たオギという植物があるため)に生き残っています。以前は田んぼの稲にも巣を作っていましたが、現在は数年に1度しか田んぼでは見られなくなりました。生態系保全班ではカヤネズミの巣の数や分布を年に2回続けながら保護活動に生かしています。わかってきたことは、生息地の湿地(オギ原)の手入れが必要なこと、イネ科植物の大切さ、オギ原周辺のササの手入れを工夫することです。貴重なカヤネズミの生息地を保護するというより、人手を入れることがよい結果につながるようです。ツルがからんで荒れた湿地より、湿地の手入れをしてオギを元気に育てている場所に巣が多く見つかるからです。チガヤやチカラシバなどイネ科植物は、カヤネズミの食料や巣を作る場所として重要です。先月号で紹介したチカラシバを刈り残している場所に、今年も巣が見つかりました。カヤネズミはイネ科の植物の葉を糸のように裂いて丸い巣を作りますが、湿地周辺のササにも巣を作りますが、ササを適度に刈りこんだ場所に多くの巣が見つかります。巣作りのためには柔らかいササの新芽が必要なようです。現在、谷戸のカヤネズミは、5~6家族しか生息していないと思われ、巣の数は横這い状態です。市内の他の緑地では数年で絶滅してしまった事例もあります。県内でも激減しているのは、生息地の手入れ作業がされていないのかもしれません。カヤネズミをこれからも守っていくため、保全作業を続けていきます。
台風の被害はありませんでしたが、9月になっても残暑が厳しく雨が多かったせいか、生きものに異変が見られます。カラスウリなどのツル植物が例年以上に繁茂しています。湿地ではオオミゾソバが繁茂しすぎたのか、オギやアシに絡みついて倒してしまいました。稲刈り後の田んぼで、ミズオオバコ(真夏の花)がたくさん咲いていたのには驚きました。赤トンボ(アキアカネ)が非常に少ないことも気になります。今年はセミも少なめでした。
今年の秋の谷戸の様子(2022年11月・会報112号)
●野外生活体験広場と枯草
谷戸は、連日のように子どもたちの自然体験の場として利用されています。自然の風景はあっても、実際に虫や野草と遊べる公園が少ないからでしょう。当会では、トンボ、バッタなど里山で増やして、来園者と触れ合えるような活動をしています。その一つが野外生活体験広場の一角にある草を刈らずに残した場所です。一般的な公園管理で隅々まで刈られた広場にしてしまうと、生きものの隠れ場所や餌場がなくなってしまいます。子どもたちが草むらで遊ぶ体験もできません。春~秋は刈り残した草むらにカエルやイナゴが隠れていたり、冬は枯草になりますが、アオジ、ホオジロなど野鳥の 餌場になり、枯草の根本は、クビキリギス、ツチイナゴなどの昆虫が冬を越す場となっています。
神奈 川県東部では絶滅危惧種のカヤネズミが巣を作ることもあります。広場の一部に草を残すことは、行政への働きかけも必要でした。たまに苦情が出ることもありますが、理解を得るために立札も立ててもらいました(写真)。刈り残すといっても、全く放任しているわけではありません。ササなど増えすぎてしまう植物の繁茂を防ぐため、手作業で選択的な除去作業を行っています。現在チカラシバというイネ科植物が安定して生育していますが、場所によっては、コブナグサなど湿地に多い植物も生えてきており、谷戸ならではのさまざまな植物が共存できるような草むらにしています。
草刈りとバッタやコオロギ(2022年9月・会報111号)
谷戸の昆虫で最も特徴的なのは、ホタルでもチョウでもなく、バッタやコオロギです。市内の緑地でも、これほど多くの種類のバッタやコオロギがいる場所はほかにはないでしょう。里山の保全作業、土手や畔の草刈り、畑の除草、稲作が、バッタやコオロギを守っています。これらをエサにするカマキリが多い場所でもあります。
●畑の除草とエンマコオロギなど コオロギ類には、畑の草取りで維持される裸地(土がむきだしになった場所)と、丈の低い草地(足首以下)が必要です。畑をやめると数年でエンマコオロギなどは姿を消してしまいます。昔からある畑を維持することがいかに大切かわかります。
●田んぼの畔の草刈りとイナゴ、コオロギ 谷戸の田んぼの生きものはすべてが貴重ですが、昆虫も例外ではありません。イナゴという名前のとおり、稲と関係が深いイナゴ、畔の草地に棲む、タンボコオロギやヤチスズなどは、一般的な緑地や公園ではほとんど見られません。
●林の管理とフキバッタ 林に棲むバッタやコオロギ類は少ないですが、散策路沿い(林のふち)には、フキバッタ(タンザワフキバッタ)やウマオイ(スイッチョンと鳴く)がいます。谷戸ではほかの緑地以上に多いようです。散策路沿いや林の下草刈りで、植物の種類が多いことが関係しているのでしょう。
●土手の草刈りとバッタ 畑や田んぼの土手を草刈りすると草の根がしっかりとはり、土手が崩れにくくなりますが、昔からの野草の保全につながっています。チガヤという植物は土手を固める効果が大きく、ショウリョウバッタモドキという貴重なバッタが棲んでいます。
●湿地の保全とヒメギス 昔からの里山管理にはありませんが、現在の谷戸(里山)では、湿地の保全も大切な作業です。放任しているとツルで覆われて、湿地らしい環境がなくなってしまうからです。湿地のアシ原やオギ原などには、ヒメギス(黒い大きなキリギリス)やキンヒバリ(小さなコオロギ、ホタル観察の時、鳴いている虫)などが棲んでいます。畑や土手には見られず、なぜか湿地だけに多く見られます。
●広場の管理とバッタ類 谷戸のように、一部公園化された里山では、来園者と生きものとの共存をはかる工夫が必要です。谷戸の「野外生活体験広場」では、機械的な草刈りで管理されていますが、当会で、一部、草刈りを控えている部分、時々草刈りをしている部分を残しています。これにより、生きもの隠れ場所や、さまざまな草丈の草地の存続につながり、バッタやコオロギが驚くほどの密度で生息しています。
●谷戸の普通種は、よそでは貴重種 谷戸に通っていると、当たり前に思ってしまいますが、現在の鎌倉市でこれほど里山の生きものがいる場所はほとんどありません。谷戸で作業している時間は、知らず知らずのうちに貴重な生きものの保護活動になっているのです。
●7月~8月の谷戸の自然状況 異例の梅雨明けの早さで、例年より一ケ月も早く6月末から猛暑が始まりました。記録的な猛暑ともあいまって、作業者には過酷な夏になっています。春先からの傾向ですが、約一週間ほど自然の暦が早めに進んでおり、セミの初鳴き、コオロギ類の初鳴きなども聞かれました。ヘイケボタルがやや少なめでしたが、これは市内の他の地域でも同じ傾向です。ここ数年アマガエルが少なくなりましたが、今年は小段谷戸のみで鳴き声が聞かれました。アカボシゴマダラという外来種のチョウが今年は特に多いようです。
湿地復元作業とドジョウ (2022年7月・会報110号)
どこにでもいそうでいないのがドジョウです。谷戸には田んぼに棲むドジョウ(マドジョウ)と水路に棲むホトケドジョウの2種類がいます。県内で珍しくなったのがホトケドジョウですが、鎌倉市内ではドジョウの方が貴重になってきました。緑地は保全されたのに、田んぼがなくなったからです。ドジョウが暮らすには、田んぼなど里山の作業が必要なのです。そこで当会では、昔からある田んぼの耕作だけではなく、周辺の湿地(元は田んぼ)に田んぼの環境を復元する作業、湿地復元を毎年実施しています。「疑似田んぼ」として田んぼに似た環境を少しでも増やそうという目的です。その結果、本来の田んぼには及ばないものの、カエルやトンボが産卵するなどそれなりの成果が出ました。しかし、田んぼとは違った意味で生きものに役立っていることも見えてきました。
ドジョウが増えてきたこともその一つです。もちろん田んぼにもドジョウはいますが、湿地復元をした場所はそれ以上に多いようです。なぜなのか?その理由として湿地復元をして草を抜いた跡は、ドジョウの食料になる草の根など有機物が多く、作業後は有機物の分解も進み、ドジョウの食料が豊富になるのではないかと想像しています。日頃から草取りなど手入れをしている田んぼの泥はきれいです。放任されている池や湿地の泥はヘドロがたまりやすくなります。湿地復元をしている所の泥は、その中間の状態なので、ドジョウなどには最適なのかもしれません。人の関わり方で泥の状態が変わり、生きものにも影響を与えているのでしょう。また、田んぼの区画により生物が違うのと同じく、湿地復元した場所により個性があるようです。流れ込んでいる水源や周辺の環境の影響でしょう。湿地復元は一年間放置した場所を再生するので、体力と人手を要します。青空自主保育のご家族や学校の協力がなければできません。たまに来る人でも谷戸で作業してくれれば、自然のために役立っているのです。
谷戸のカエルと現状その2 (2022年5月・会報109号)
子どもがのんびりオタマジャクシと触れ合えればと思って活動してきましたが、道のりは遠いです。公園の中で里山の生きものを守ることは、昔ながらの方法だけでは難しいということを、カエルの保護で感じています。昔ながらの田んぼや雑木林に暮らすアカガエル類やシュレーゲルアオガエルは絶滅しやすく、アマガエルとヒキガエルは環境変化に強いと言われてきました。それが近年、ほとんどのカエルが減少し始めています。これは谷戸の環境変化というより、天敵の影響と考えます。
アカガエル類の減少 10年?くらい前までは、連休に「田うない」をしていると足元にアカガエルのオタマジャクシがうごめいていたものですが、今はほとんど見られません。4月中にカルガモに食べられてしまうようです。数年前まで卵塊が盗まれる被害がありましたが、ここ数年はカルガモによる食害が明らかにになってきました。
オタマジャクシがカルガモに食べられている 本来、カルガモは4月に田んぼに現れて田植えのころになるといなくなる習性がありましたが、近年は生態が変化したらしく、夏まで居座って、オタマジャクなど田んぼの生きものを食べつくしているようです。カルガモは泳ぎながらクチバシをパクパクと動かして口に入るものは何でも食べてしまうので、植物だけでなくあらゆる生きものを食べてしまいます。シオカラトンボも最近減少してきましたが、カルガモに幼虫を食べられているのでしょう。昨年の観察では、同じペアがずっと居続けていることが判明しました。昔と違い、一日中、田んぼでエサを漁っているので影響が大きいのです。
保護対策 カルガモが田んぼに入れないようにするために、一部の田んぼを金網やネットでおおうことを昨年から本格的に始めました。景観にはよくないし、畔が傷むのですが、会や田んぼ班の方のご理解で実現できました。田んぼの中でも水が安定している区画に、干上がりやすい区画の卵塊を移動し集中させています。昨年、そして今年も、全体の半分近くの卵塊を保護しています。昨年の場合、保護した区画のみにオタマジャクシが多く残っていたので、一定の成果が出たと思います。来年以降、卵塊の数が増えてくるのではと期待しています。
谷戸の自然の様子 冬の寒さが厳しかったためか、アカガエルの産卵がかつてないほど遅くなりましたが、卵塊の数は昨年とほぼ同じ、約200個でした。キブシやスミレなど早春の花が咲くのも半月近く遅れましたが、3月半ばから突然気温が上昇し、3月末にヤマザクラが満開となり、早春と春の花が同時に咲いた感じです。4月10日にクビキリギス(夜、ジーッと鳴くキリギリスの一種)が鳴き始め、アゲハチョウなど春のチョウを見かけるようになりました。全国的に寒暖の差が激しく、冬から夏へと突然季節が変わっていく傾向があるようです。