変わりゆく自然(2023年9月・会報117号)

タマムシ

ハンミョウ

コシボソヤンマの産卵

 7月の初旬に台風が来た後、8月半ばまでまったく雨が降らず、水に悩まされています。昨年以上の酷暑と晴天が続いたので苦しい夏になりました。谷戸の自然は、例年より早いペースで季節が進んでいるようで、セミやコオロギなどは一週間ほど早めに鳴き始めています。今年はトンボやチョウをはじめ生きものが少なめですが、タマムシが多いようで、珍しいトンボのコシボソヤンマや、美しい甲虫のハンミョウが見つかりました。ハンミョウが見つかったのは数年ぶりだと思います。

アオダイショウの抜け殻

シマヘビ

●谷戸の道具置き場とヘビ
 谷戸の倉庫の近くで、2m近いヘビの抜け殻が見つかりました。大きさからアオダイショウと思われます。谷戸のヘビとしては最大級の大きさです。大物のアオダイショウがいるということは谷戸の生態系がまだ豊かな証拠かもしれません。谷戸では7種のヘビが記録されていますが、よく目立つのは、1メートル以上に育つシマヘビ、アオダイショウ、ヤマカガシでしょう。ヤマカガシは黒っぽいヘビですが、よく見ると赤や黄色の模様があります。近年、ヤマカガシには毒があることがわかり、恐れられるようになりました。怒ると、コブラのように体を持ち上げて威嚇します。ヒバカリという、オタマジャクシを食べるヘビもよく見かけますが、小型なのであまり目立ちません。マムシは有名ですが、数が少ないヘビで、今では数年に一度見かける程度です。ヘビを見かけるのは田畑の周り、散策路沿い、そして道具置き場など人間が利用している場所です。よく茂った草むらや湿地の奥など、いかにもヘビが出てきそうな場所にはいないのが不思議です。カエルなど里山の生きものが多い場所にヘビも集まってくるのでしょう。竹や丸太などを保管する道具置き場もヘビの隠れ家として役立っているようです。田畑の周りにある、昔ながらの道具置き場には、隙間や空間があり、昆虫も多く利用します。昭和の頃、古い木造住宅にはアオダイショウが棲みついていて「家の主」と呼ばれていました。屋根裏や縁の下、木造の物置があったからでしょう。当会では、田畑だけでなく、その周辺の景観に配慮していますが、昔ながらの竹や丸太、ササを使ったり、伐採した木を集積してあるような景観が、里山の生きもののために役立っているのです。

変わりゆく自然(2023年7月・会報116号)

 今、生態系の節目を感じています。以前からカタツムリなど身近な生きものが少なくなっていますが、今年はスズメやツバメ、田んぼのシオカラトンボまでが減っています。谷戸のホタルはいるものの、ホタルを取り巻く生きものが姿を消し始めました。夕空に舞うコウモリが全く見られなくなりました。初夏の夜、ジーと鳴くキリギリス(クビキリギス)も今年はあまり耳にしません。これほど少ない年は初めてです。数年前からじわじわとクモが減っており、ヤマシロオニグモなどは絶滅状態です。今までは、環境(植物)を守れば自然を守れると思っていましたが、谷戸の環境(植物)は健在なのに、なぜか昆虫や小動物が減少しているのです。今まで少しずつ蓄積されてきた化学物質のようなものが、臨界点を超えてしまい、いよいよ影響が出始めているのかもしれません。カルガモなど天敵の生態が変化しているのも原因でしょう。

チダケサシ 6月
コチャバネセセリとチダケサシ 7月


●田んぼの土手を彩るチダケサシ
 田んぼの土手だけにある野草、それがチダケサシです。市内ではほとんど見られなくなった野草です。田植えが終わったころ、6月下旬から7月半ばに桃色~白の花穂を咲かせます。その見事さは園芸種かと見間違えるほどです。チダケサシとは、「キノコを刺す」という意味だそうです。チダケサシの花穂をさわってみると硬くてざらざらしており、キノコを刺しやすく滑り止めにもなりそうです。昔の子どもたちがキノコ(キクラゲなど)をチダケサシの穂に刺して持ち帰ったのでしょう。田んぼの土手には昔からたくさんあり、散策路側にも増えてきています。宿根草なので何年も根が生き残ります。谷戸のチダケサシは、35年くらい前に見つけた場所で今も咲いています。急に増える草ではありませんが、樹木のように寿命が長いようです、かつて谷戸が公園になる前の時代、このチダケサシを大量に盗掘しようとした人たちがいました。その場で話し合い、植え戻させましたが、一抱えほども大量に掘り盗っていたのには驚きました。田畑の土手にある野草は何十年も生きますが、作物の周りに生える雑草のようには簡単には生えません。大切に見守りたいと思います。

春の谷戸の様子(2023年5月・会報115号)

 今年の冬は寒かったのですが、3月になってから記録的な暖かさが続き、10日ほど早く季節が進んでいます。桜は3月下旬で満開になり、4月中旬から藤やツツジが咲き始めてしまいました。急激な温度変化は近年の傾向で、春や秋が短くなってきたようです。アカガエルの卵の保護をして3年目になり、成果が出てきました。一時は100個ほどだった卵が今年は290個になり、元の数に回復しつつあります。一方で、ヒキガエルの産卵がほとんどありませんでした。アライグマに親のカエルが捕食されているのか、近年ヒキガエルの減少が著しくなっています。

●田んぼの畦(あぜ)と畔(くろ)

田んぼの畔
オオジシバリ

 畦も畔も同じに思われがちですが、谷戸の田んぼでは、畦と畔を区別します。畔は“くろ”と呼んでいます。幅が広くて通路に使うのが畦、幅が狭くて田んぼの段差を仕切っているのが畔です。畦は歩けますが、畔は崩れやすいのでなるべく歩きません。そのせいで畦と畔では違う植物が育ちます。畦には土手と同じような植物がありますが、畔には田んぼにしかない植物が見られます。夏に畔のふちにびっしり生える緑色のヒデリコや、秋に薄紫色の花を一面に咲かせるミゾカクシなどがあります。また、畔は田植えの前に、水漏れを防ぐため、畔切りと畔塗り(畔つけ)という作業をします。毎年、同じ部分を削ってから泥を塗って作り直すので、そこにも独特の植物が育ちます。春4月頃になると黄色いオオジシバリという花が畔に一面に咲きますが、よく見ると、畔切りと畔塗りをする片側だけに生育しています。畔の両側で植物の種類が変わってくるのです。このように、畦と畔を区別して、畔の手入れを昔ながらに続けていると、田んぼらしい植物が守られていくようです。

 他所にも公園の中で田んぼを続けている場所はありますが、畦と畔が同じ扱いになっていたり、畔が板で囲われたり、畔そのものがなくなってプールのような田んぼになっているところもあります。田んぼを残すだけでなく、昔ながらの農法を継続することが里山の自然のために大切なのでしょう。