谷戸の自然だより(2018年度)

生態系から観た、里山の手入れ 谷戸の湿地 その9 (2018年7月・会報86号)

●谷戸の湿地は希少な環境

鎌倉で、ほぼ壊滅したのが「カヤ原(ススキ草原)」です。谷戸の湿地はカヤ原を代用する草地として重要です。カヤネズミなど県内で激減している動物や、アシ原特有の昆虫も見られます。また、「擬似田んぼ」としての役割もあり、カエルやトンボ、ヘイケボタルなども生息します。湿地をよい状態で存続するには、これまで述べたように手入れを要することが判ってきました。

●都市型の里山(公園)には湿地が必要

近年は、公的な緑地(公園)の中で、里山的な環境を守る試みが始まっています。都会の周辺では、農家に代わって市民が里山の担い手になってきました。従来の里山に、教育と生態系保全という新たな視点を加えることで、新たに「都市型の里山」が生まれてきたと感じます。昔からの田畑の周辺に湿地や原っぱなどがあることで、生きものの種類が増え、自然豊かな緑地となります。

●体験学習や作業体験の場として活用

小中学生や一般のボランティアを受け入れる際、田畑の周辺の湿地が役に立っています。田畑より作業に熟練を要しないし、作物を気にせず、比較的大勢が入れます。湿地復元(湿地の中に水溜りを作る作業)のほか、ツル(カナムグラやクズ)や帰化植物(セイタカアワダチソウなど)の除去作業(湿地本来の植物、アシやオギを守る)があります。今後は冬に湿地の草刈りをしてもらうなども考えられるでしょう。

●来園者が生きものと触れ合える場所として

公園であっても、田畑に不特定多数の人を入れるわけにはいきません。教育のためには、田畑で育った生きものが来園者と触れ合えるように工夫しなくてはなりません。田畑の周辺の湿地や水溜りに、生きものが棲み付くような環境整備が必要です。田畑を保護区として里山生物を守り、田畑で増えた生きものが、周辺の広場や水路に出てきて、子ども達が生きものと触れ合えるようにするのが理想です。そのために、湿地の保全作業を模索する意義があると思います。昔から、食料生産の場であった里山の生活のよさを見直しながら、教育や自然保護の価値観を取り入れることで、より多くの参加を期待できるでしょう。

生態系から観た、里山の手入れ 谷戸の湿地 その8 (2018年5月・会報85号)

●湿地復元をしている4つの場所

湿地の水たまりを維持するために、毎年、4つの場所(小さな池)で湿地復元作業をしています。前回説明した「湿地内部の水たまり」よりも大きく目立つ場所にあるので、子どもたちの自然体験の場としても利用されています。生態系保全からは「擬似田んぼ」として、また体験学習の場としても重要です。4つの場所は各々由来や特徴に違いがあります。
1.ししいし裏の湿地(休耕田)
1997年まで田んぼだった場所です。休耕田のように、水面が見えて「田んぼ雑草」が生えている状態を維持することが目的です。子どもたちの遊び場所でもありますが、石や枝を投げ込まれていることもあります。夏は干上がることがあるので、上流側の湿地(ザリガニ池)から水を導入しています。
2.通称「ザリガニ池」
「ししいし裏の湿地」から道路を隔てた場所です。湿地の排水マスの周辺を、アシを除去して小さな水溜りにしています。水面が見えるようにすることで、子どもたちが水辺の生きものと触れ合える場所です。「ししいし裏の湿地」へ水を導入するための流路を確保する意味でも手入れが必要です。周辺の湿地内部を流れる水路の草を抜き、掘り直すなど手入れをしています。
3.農家風休憩舎脇の湿地(水たまり
1986年ごろは湿地の水溜りで、当時、湿地復元をしたところ、スキー板やペンキの缶など粗大ゴミが大量に埋められていました。水が溜まるようにすることで、田んぼから流れてきた生きものが、この湿地に滞留して生き残れるようにしています。最近、湿地の一角でヘイケボタルが増えてきました。外来種のオオフサモが繁茂して水面がなくなってしまうことや、水路(体験広場の北側を流れる水路から導入)が埋まりやすいので、手入れが必要です。
4.田んぼの先の湿地(水たまり)
公園整備の際、谷戸を横断する園路が造成されたので、田んぼの先(東谷沖)の湿地と田んぼが道路で分断されてしまいました。横断道路の上流側に湿地の水が溜まりやすくなって、水溜りのようになっています。泥が深く、ひざの上まで浸かります。放任すれば、ガマやアシが茂り、より一層、ヘドロも溜まりやすくなります。年に一度でも手入れをすることで、湿地(水たまり)に流れができ、ヘドロが少しずつ流れていきます。またホトケドジョウなどの生きものが生息できるようになります。
次回は、まとめとして湿地の手入れと生きものについて考えてみます。