谷戸の自然だより(平成25年度)

里山(雑木林)が荒れるとは? その1(2013年5月・会報55号)

前回まで・鎌倉の森は常緑樹が増えて原生林(その土地本来の自然の森)に戻りつつあるが、鎌倉の場合は原生林に戻してもあまり豊かな森にならないこと・雑木林を放置した結果、落葉樹の種類が増え、大木が育ったことで生態系を豊かにした面があること・反面、昔からの雑木林の生物が減っていること、を書きました。しかし、昔の雑木林をイメージするだけでは充分とは言えません。それは、里山の荒廃の仕方がさまざまであり、木の種類が増えて生態系を豊かにした面もあるなど、かつてない複雑な状況になっているからです。限られた労働力で、多様な里山の生きものを保全するために、里山(雑木林)の荒廃を細かく分析して考えたいと思います。
以下は鎌倉市の植生図の区分に対応しながら、現状を説明したものです。

① 昔からの雑木林(コナラ、クヌギ、ヤマザクラ)に、下からササや常緑樹が生えてきている林

荒れた雑木林の一般的なイメージ。台木状(切り株から数本の太い幹が出て、大木になっている状態)になっているクヌギ、コナラ、ヤマザクラが多い。炭焼き小屋の裏など緩やかな斜面に多い。手入れをすれば雑木林が復活する場所。荒れ方にはさまざまな段階がある。

② 昔からの雑木林(コナラ、クヌギ、ヤマザクラ)が、更新に失敗? シデ(イヌシデ、クマシデ)が多い林。

一般に①との違いは認識されてないが①とは違って、台木状のクヌギやコナラが少なく、ミズキやシデなど新しく増えてきた落葉樹が多い。これらは台木状には育っていないので見分けられる。
 疎林広場へ上がる道沿いの斜面など。①にくらべると手入れの優先度は低い。

③ 元々?スダジイ(シイの木)など常緑樹が多い林

急傾斜地、尾根筋に多い。自然度が高いとされている林だが、実際には植物の種類が少ない。急傾斜地で手入れがあまりされなかったり、尾根ではマツ林の跡がスダジイ林になっていることもある。台峯との境界部の尾根に多い。

④ 急傾斜地でケヤキ、ムクノキ、イロハカエデ(モミジ)が目立つ林

谷戸の奥など渓谷のような場所に多い。谷戸の池周辺などで見られる。シイの木の林と同じく、自然度が高いとされている林だが、②と③と見分けがつきにくいこともある。倒れそうな木を切る以外は、特に手入れの必要はないと思われる。

里山(雑木林)が荒れるとは? その2(2013年7月・会報56号)

⑤ 昔、斜面が崩れて土が堆積した場所に生えるミズキの林

谷戸の斜面をよく見ると、所々に小さく凹んだ斜面があり、かなり昔に崖崩れがあった跡と思われます。このような所にはミズキやアカメガシワなど昔はなかった落葉樹が数本かたまって生えており、新しいタイプの林ができ始めています。木の種類が増えることは野鳥や昆虫によいかもしれませんが、放置すれば木が倒れて斜面が崩れやすくなるなど問題も抱えています。このような林は専門家の研究もなく、どう評価するか、鎌倉市の自然環境調査でも結論が出ませんでした。急傾斜地では伐採して、ケヤキ、ムク、モミジ(イロハカエデ)など倒れにくい樹種を植林していく必要があると感じます。

⑥ 近年、斜面が崩れて半ば岩盤が露出している場所に生えるキブシやハコネウツギの林

ししいしや田んぼ周辺に数か所あります。放置していても、いずれ④ケヤキ・モミジ林に移行すると予想されますが、⑤のように倒れやすい木が生えてくることもあります。再び斜面の崩壊を引き起こす可能性があるので、手入れが必要です。天園ハイキングコースで、大規模に崩壊した跡地がクズの大群落になっている場所などは森林に再生していくのかよくわかりません。

⑦ 最近、木を伐採した跡地に生えるカラスザンショウの林

小段谷戸の斜面など、最近伐採した跡地に見られます。日当たりがよくなるとカラスザンショウやハゼ、アカメガシワ、ミズキなどがすぐに生えてきます。このような樹木は野鳥や昆虫のために役立つので、歓迎したいところですが、斜面の崩壊を引き起こす原因になるので、将来を考えると、放置せず適度な手入れが必要でしょう。

⑧ 荒れた植林地 スギ、ヒノキの林

ヒノキは岩を抱えるように根が張るので尾根に、スギは根が真直ぐ伸びるので、土壌が厚い斜面下部に植えるそうですが、鎌倉の場合、混在して植えられていることが多く、急斜面に植えられたスギが倒れて問題を起こしています。将来倒れそうなスギはあらかじめ伐採した方がよいと感じます。
また、スギ林の下草は、アオキやイヌビワなど低木が目立つ場所、シダが多い場所、ヤブミョウガが密生している所など、さまざまな状況が観察されます。これらは下草刈りの仕方で変わってくると思われますが、クロジなど貴重な鳥類の生息地になっている場合もあるので、単純に下草刈りをすればよいわけではありません。まずスギ林の中の倒木等を整理することが必要と思われます。

里山(雑木林)が荒れるとは? その3(2013年9月・会報57号)

⑨ 荒れた竹林

鎌倉では荒れた竹林が増え、雑木林を浸食しています。竹林が荒れて、生態系によい影響を与えることはなさそうです。手入れをして、みなに親しまれる美しい竹林を取り戻せればと思います。

⑩ 畑の跡地 2m位のアズマネザサが密生している。尾根沿いに点在

かつて山の中にあった畑は、今やアズマネザサ(以下ネザサ)に覆われてしまいました。このような場所は植物の種類が少なく、虫や鳥もあまり利用しません。畑に戻せないまでもネザサを刈りこんで、昔はたくさんあったススキの生える原っぱを復元できればと願います。山崎の谷戸では、もめんばたけの奥にこのような場所がありますが、モズなど野鳥が営巣(田んぼ周辺)したり、カヤネズミの営巣地(もめんばたけ奥)になっていることが判りました。山崎の谷戸のように、市民の手で里山の手入れが始まっている地域は、事前の調査と部分的にササを刈り残す配慮が望まれます。

⑪ 田んぼの跡地にハゼやミズキ、フジが生える

かつて田んぼだった所はアシやオギの湿地になっていますが、畔にハゼやクワなどの木が生えてきました。長年放任していると、湿地が林のようになってしまうことがあります。鎌倉では湿地も貴重な環境なので、基本的には湿地に生えた木は切るべきしょう。その一方で、ウツギなどの低木が適度に刈り残されていると、野鳥や昆虫の生息地として役立ちます。また、湿地の中にヘイケボタルの生息地が点在していますが、このような場所は湿地の上に被さった枝を残す配慮が必要です。

⑫ 散策路沿いのネザサ、アオキ、ツル植物

かつて農道だった散策路は、植物が茂り、路肩が崩れて狭くなってしまいました。人が歩いていれば道がなくなることはありませんが、放任していると草木が茂って歩きにくくなりますし、アオキやササ、ツル植物が繁茂して、野草の種類も少なくなってしまいます。最低、年一回は手入れが必要です。手入れの際は、無差別に刈らず、ネザサとアオキ、クズ、カナムグラを中心に刈っていくと植物の種類が豊富になり、自然観察に適した散策路となります。
以上、私なりの経験をもとに、鎌倉の里山の荒れ方についてまとめてみました。昔と今では、里山を取り巻く状況が変わっており、昔のように戻すと言っても、自然を豊かに保つにはそれなりの配慮が求められます。昔よりはるかに狭い面積で何とか生きものを守れないか? 不特定多数の人の利用にいかに対応するか? 里山の荒廃で新たに出現した環境、増えた生物をどのように生かすか? 次号以降で考えてみたいと思います。

生態系から観た、雑木林の手入れの基本 その1~(2013年11月・会報58号)

⑨ 荒れた竹林

前回までは、鎌倉の里山のさまざまな荒れ方を挙げました。雑木林が放棄されて50 年以上がたち、昔では考えられなかった新しいタイプの林ができつつあります。現代の鎌倉の場合、都会人が住んでいる町の中の里山ですから、生態系や景観を守ることが求められています。本来の里山にはあり得なかった、田んぼの跡地の湿地や大木の多い林の保全をどうするかが課題になっています。
従来の里山保全の手法に加え、里山の「荒れ」を活用した現代的な里山の手入れの方法も考えていくべきでしょう。新しい時代の雑木林の手入れにあたって、生態系保全の立場から知っていただきたい事項をまとめてみます。

①木が大木に育つと

鎌倉の山は急斜面のうえ、土壌が浅いため、大木に育つと根が支えきれず、根ごとひっくり返る“座返り”という現象がおきることが地元の人によく知られています。ただ、特に倒れやすい木と、大木になっても倒れにくい木があるので、それらを見分けて、優先的に切るべき木と、残してもよい木を知っておくべきでしょう。

②倒れやすい木とは?

木の種類では、急斜面に植えられたスギ、枝が横に広がって頭でっかちな樹形に育つミズキ、カラスザンショウ、アカメガシワなどの樹種は特に倒れやすいです。コナラやヤマザクラも大きく育つと倒れやすいです。一方、ヒノキやケヤキ、ムクノキなどの樹種は、倒れにくいと言われています。それを知ってか雑木林の中に、ケヤキの大木が残されているのも見かけます。また、木の種類を問わず斜めに傾いて育っている木は、いずれ倒れる危険があるので優先的に切るべきでしょう。

③雑木林の下草(アオキ、ササなど)刈り

生態系の観点では、森を明るくし、動植物の種類を増やすために必要な作業です。昔は山の手入れという意味で、役立つ木(ヤマザクラ、コナラなど)以外は切ってしまうという考え方だったようです。忘れてならないことは、大きな木(高木)を切らないまま、下草だけ刈っても、あまり光は入らないため効果が薄いということです。また、昔の里山のように地元の人以外は入らない静かな場所なら良いのですが、現代の鎌倉の様に不特定多数の人が出入りしている状況では、下草が目隠し(野鳥などの隠れ場所)として必要なので、ある程度残す工夫が必要です。低木や亜高木などもある程度残さなければなりません。幸い当会の雑木林の手入れでは、このような配慮がなされています。

生態系から観た、雑木林の手入れの基本 その2(2014年1月・会報59号)

④落ち葉かきの大切さ

林を手入れすることで、落ち葉かきがしやすくなります。昔はこれを堆肥の材料に使っていました。今では落ち葉かきをしなくなって半世紀以上たつので、林に落ち葉がたまって林の土が肥えてきています。アオキやツル植物など、昔は少なかった植物が繁茂するのは、手入れをしないからだけではなく、土が肥えてきたからかもしれません。その証拠にアオキなどはいくら切ってもすぐに生えてきます。本来の雑木林の土はやせていたはずで、昔は松が多かったのもそのせいでしょう。木を切ることだけでなく、落ち葉をもっと活用することが雑木林の復活につながるのではないでしょうか。

⑤増える木と減る木

昔はクヌギ、コナラ、ケヤキ、ヤマザクラなど暮らしに役に立つ木以外は全部切るという考え方でしたが、今は生態系保全という観点から、放っておいても増える木は切り、減っていく木は残すことを念頭に雑木林の手入れを考えたいものです。一般に、雑木林の手入れでは、常緑樹を切り落葉樹を残すことになっているのは、常緑樹の大部分は放っておいても増えるからです。しかし、常緑樹でも残したい木はありますし、落葉樹でも危険木になりやすく、すぐに生えてくるミズキやカラスザンショウは切る場合もあるでしょう。また、クヌギやヤマザクラのように、苗木を植えないと後継樹が途絶えてしまう木もあります。生態系に配慮した雑木林の手入れには、樹木の知識が望まれます。

⑥植林地の考え方

倒れにくいヒノキは尾根に、倒れやすいスギは斜面下部に植えるのが原則だそうですが、鎌倉ではスギとヒノキが混じって植えられている場所が多いのです。急傾斜地に植えられたスギが倒れる被害が後を絶ちません。いずれ倒れそうなスギは切るべきでしょう。また生態系保全から見ると、スギ林の下草刈りには配慮が必要です。アオキやシダ類を一気に刈ると、ヤブミョウガで覆われてしまい、植物層が単純になってしまうことが多いからです。また、スギ林の下草にはイヌビワやムクノキなど、意外に多くの樹木が育っており、シダの茂った環境はクロジなど鎌倉特有の野鳥の生息地になっているからです。

生態系から観た、雑木林の手入れの基本 その3(2014年3月・会報60号)

⑦ササは悪者?

里山の手入れはササを刈ることから始まります。しかし、現在の山崎の谷戸は住宅地に囲まれた「都市型の里山」です。生態系保全から考えると、ササを無くすだけでなく活かす工夫が求められます。生きものの隠れ家としてササが役立ちますし、ササに依存して生きる生きものがいるからです。

⑧無くしたいササ

【湿地のササ】
谷戸では、昔は田んぼだった所がアシやミゾソバ、オギが生える湿地になっています。一見、荒地のようですが生態系としては大事な場所です。長年放任した結果、乾燥化が進んだせいかオギ原にササが侵入してきてササ藪になりそうな場所があるので、湿地存続のためにもササを刈るべきでしょう。

【畑の跡地のササ】
昔、畑だった所が2mくらいに伸びたササ藪に覆われています。野鳥のねぐらになる場合もありますが、何度も刈って草が茂る原っぱの状態にするか、開墾して畑にもどす方が生態系として豊かになることを実感しています。

⑨手入れをして活かしたいササ

【土手】
田畑周辺の土手は崩れるのを防ぐため、昔から丈の低いササやチガヤで固められていました。また農家がジャノヒゲを植えて補強している部分も見られます。ササやチガヤを年に数回刈ることで、30cm以下くらいの草丈に抑え、根をよく張らせるようにしたものです。しかし刈りすぎるとササやチガヤが弱って土が露出するようになり、土手が崩れやすくなってしまいます。小段谷戸の道路に面した土手がその例です。

【雑木林】
昔は、雑木林の地面は落ち葉かきがしやすいように、ササなどの下草が刈られていたようです。しかし、「都市型の里山」の場合は、野鳥などの隠れ場所はもちろん、人の侵入を防いだり、境界部の目隠しのため、数年に一回程度のササ刈りで済ませるなど、奥の部分はある程度ササを残した方がよいと感じます。

⑩部分的に残したいササ

【土手や湿地】【雑木林】【散策路沿いの一部】 
長年の観察の結果、「都市型の里山」の場合、少しササ藪を残すことで、生きものを守れることがわかってきました。例えばモズは、田畑の近くに背丈くらいのササ藪が数メートル四方残されていると巣を作ります。クロマドホタルという陸に棲むホタルやチョウ(ジャノメチョウの仲間)などは膝以上に伸びたササ藪があるかないかで生息数が全く違ってくるのを経験しています。最近数が減ってきたカヤネズミは、生息地である湿地に隣接したササ藪に巣を作る場合が多いこともわかってきました。