谷戸の自然だより(平成23年度)

早春から初夏へ(2011年5月・会報43号)

未曾有の大震災を憂いているかのように、サクラの開花が一週間以上遅れました。春のチョウやトンボも出遅れていますが、今年は春先に多いシオヤトンボの数が少ないようです。春の寒さが影響しているのでしょうか。シオヤトンボは、シオカラトンボに似た白っぽいトンボで、田うないの頃、畔に多くのシオヤトンボがとまっている様子は、初夏の谷戸らしい風景です

アマガエル

谷戸にはアオガエルとアマガエルがいることをご存知でしょうか。「♪月夜の晩にコロロ・コロコロ鳴く声は、あれはカエルの銀の笛♪」という曲はアオガエルのことです。「♪カエルの歌が聞こえてくるよ、ゲッ・ゲッ・ゲッ・ゲッ、ゲロゲロゲロゲロ、グワッ・グワッ・グワッ♪」という曲はアマガエルの鳴き声を表しています。アマガエルは田んぼがあればどこでも住んでいるようですが、アオガエルは田んぼの周囲に広い林があるような谷戸でないと暮らせません。両種のカエルが見られる谷戸は貴重な場所です。共に普段は樹上で生活していて、産卵の時だけ田んぼに降りてきます。冬眠から覚めるのは一緒でも、鳴き始めるのはアオガエルの方が早く、4月下旬から5月、田うないの頃に産卵を始めます。アマガエルは田植えが始まる6月初旬、アオガエルの産卵が終わるのを待って?から産卵を始めます。中にはアオガエルと同時期に産卵してしまう、節操も無い?アマガエルもいますが、昔からのしきたりを知らない他所から流れてきた新参者のアマガエルに違いないと想像しています。

アマガエルは、田植え直後の稲の苗などに、仁丹の粒くらいの透明な卵を産みます。小さな泡そっくりな卵が数個水中にあるだけなので、ほとんど見つけられません。ほどなく、無数のゴマ粒くらいの黒いオタマジャクシが田んぼに湧いてきて驚かされます。アカガエルなどは他のオタマジャクシより小さいので、農作業をしない人には見つけにくいのですが、田んぼに入って作業される方はぜひ探してみてください。圧倒されるほどの数です。これがアマガエルのオタマジャクシで、成長すると、アカガエルなど他のオタマジャクシと同じくらいの大きさになります。丸っこい体つきで目が体の横についているので、フグに似た黒っぽいオタマジャクシです。尾が長くスマートで薄茶色のアオガエルのオタマジャクシとはすぐに見分けられるでしょう

初夏から梅雨へ(2011年7月・会報44号)

初夏が過ぎても一週間近く季節の歩みが遅れており、ホタルの出足も遅めです。ノイバラやウツギ(卯の花)など初夏の樹木の花が見事に咲きました。今年は特に田んぼのオタマジャクシが少ないようです。アカガエルなど産卵量が少なかったこともありますが、天敵のカルガモやアオサギに食べられる被害が深刻になっているようで、そろそろ対策が必要かもしれません。

クサガメ

亀が田んぼにいた! 谷戸に来て驚いたことの一つです
市内の池で見られる亀は、放されたペットが野生化した ものと思われますが、谷戸の亀は本物の野生でしょうか?

池でのんびりしている亀とは違い、人を見ると敏捷に姿 を隠します。谷戸の田んぼの亀はクサガメ(臭亀)という 種類で、触ると独特の臭いがありますが、それほど臭いと は感じません。甲羅に3本の隆起した線があるのが特徴で、甲羅に黄色い筋があるものもいます。首の側面に草色の斑紋があります。日本産の亀ですが、西日本から移入されたという説もあるようです。ホタル観察をしている時、夕暮れの田んぼを這い回るクサガメを見たことがあります。稲株の間をゆっくり動きながら首を上下させて餌を漁っている様子でした。田んぼの各区画に大小1匹以上のクサガメがいて、意外に多数が生息していることがわかりました。市内の他の田んぼでは見たことがありません。一昨年、生まれたばかりのクサガメの子亀が畑で見つかってマーキングされましたが、先日、炭焼き小屋近くの畑で見つかりました。田んぼから離れた畑で見つかるということは、移動経路も含め谷戸の自然を広く利用しているということでしょう。カエルやトンボなどは水辺に隣接する草地や林を利用して育ちますが、亀も同じなのかもしれません。

谷戸では下の池(管理棟のある谷)にもクサガメがいましたが、今では全部外来種のミシシッピアカミミガメ(赤耳亀)に占領されてしまいました。ミシシッピアカミミガメは、その名の通り、首の側面に赤い斑紋があります。子亀は緑色できれいなので“緑亀”という名でペットとして販売されており、これが野生化してしまったのです。肉食性が強い亀と言われており他の亀を食べてしまうらしく、八幡宮の池など市内の池の亀は、この10年ほどの間に、アカミミガメに占領されてしまいました。今までいたクサガメは駆逐されてしまったようです。田んぼに侵入してきたら大変ですので、もし、池以外の場所でアカミミガメを見かけたら、必ず捕獲してください。

真夏(2011年9月・会報45号)

早めに梅雨明けした後、記録的な猛暑と水不足が続きました。この夏はやっかいな外来生物の浸入に悩まされています。田んぼにアカウキクサ(アゾラ・クリスタータ)が浸入してしまったのです。

驚異的な繁殖力で水面を埋め尽くすように広がるので、他の水生植物や生きものなど生態系に大きな被害が出る可能性があります。すでに市内の池や田んぼでも急激な増殖が深刻になっており、駆除対策に苦慮している状態です。谷戸では、最初は特定の区画だけだったものが、一気に全域に広がる恐れが出てきました。その他、中国産のガビチョウという鳥が数を増やしており、派手な鳴き声をあちこちで耳にするようになりました。同じく中国産のアカボシゴマダラという美しい蝶が増え、今やどこでも目にします。生態系への影響はまだ分かりませんが、よく目立つ生きものだけに、谷戸の自然の印象に与える影響は大きいです。両種ともに飼育されていたものが野生化して広がったようです。

カマキリ オオカマキリコカマキリハラビロカマキリチョウセンカマキリヒナカマキリ、あなたは幾つ知っていますか?

谷戸ではヒナカマキリ以外はごく普通に見られます。虫に詳しい男の子なら、はじめの3つくらいは知っているでしょう。でもチョウセンカマキリオオカマキリと姿がそっくりなので混同されているようです。谷戸の場合、田んぼにいるのはチョウセンカマキリ、それ以外はオオカマキリがほとんどのようなのです。チョウセンカマキリの卵はあちこちで見かけるのに、なぜ田んぼに集まってくるのか?なぜ棲み分けているのか?不思議です。
オオカマキリは水が苦手?チョウセンカマキリオオカマキリより少し小さいので、競争を避けるために田んぼに棲み着くようになった?など、いろんな想像がふくらみます。
田んぼに行ったら、スマートな体型のカマキリをつまみあげて対面してみましょう。前足(カマ)付け根に朱色の点があればチョウセンカマキリ、黄色い点だったらオオカマキリです。

【谷戸で見られるカマキリ一覧表】

大きさ 生息地
オオカマキリ
75ミリ~90ミリ
主に緑色
草地、林のへり
チョウセンカマキリ
65ミリ~80ミリ
主に緑色
田んぼ、草地?
ハラビロカマキリ
50ミリ~70ミリ
主に緑色
林のへり、樹上
コカマキリ
45ミリ~60ミリ
主に茶色
草地
ヒナカマキリ
20ミリ
主に茶色
暗い森の落葉の上

晩秋から冬へ(2012年1月・会報47号)

9月22日の台風の塩害で落葉し、10月には丸坊主になった木が多く、そのショックで新緑が芽吹いた木々が目立ちます。地形によっては塩害を受けずに見事に紅葉している斜面もあり、今年の晩秋は紅葉と新緑が同居する不思議な景観でした。暖かい日が多かったので紅葉は一週間ほど遅れたようです。また、10月から12月の大雨が来ないはずの時期に、台風並みの強風や大雨に見舞われるなど、温暖化を思わせる異常気象でした。

オギとススキ

晩秋から冬にかけて、枯れたススキの穂が目立ちます。谷戸のススキには2種類あるのをご存知ですか?湿地に生えているススキのような植物はオギなのです。荻窪(おぎくぼ)という地名や、荻原という苗字がありますが、名前の通り、窪地(谷戸)に群生する植物です。谷戸では道端や土手にススキ、湿地はオギと住み分けていますが、道端でも湿った所にはオギ、湿地の中でも畔跡地のような乾いた所にはススキが生えるので、どちらか迷うもこともあります。見分け方は下の表を見てください。オギとススキは環境や茂り方で見分けられますが、谷戸のように両種が入り混じる所では、種子を観察して識別しないと間違いやすいでしょう。オギの茂り方で谷戸の湿地の状態がわかります。田んぼをやめると最初にアシが生えてきますが(長靴でないと入れない湿地)、その後乾燥してくるとオギに移り変わり(踏み込むと靴が濡れる)、完全に乾燥するとササや樹木が茂った藪になるようです。カヤネズミ、キンヒバリ(小さなコオロギ)など谷戸の湿地は貴重な生物の生息地ですが、アシかオギが生えている状態で存続させることが必要です。また、オギ原は野鳥の冬の餌場や生きものの隠れ家としても大切です。オギの穂(種子)はホオジロやアオジの食料となり、冬のオギ原に生える青々としたセリはノウサギや野鳥そして人間も利用します。稲刈りの終わった田んぼとオギ原が混在するような環境が、冬を過ごす生きものにとって過ごしやすいのです。

山崎の谷戸のように周辺を住宅地で囲まれている“都市型”の里山では、一面の田んぼだった昔の里山よりオギ原が混在するような少し荒れた状態が生態系には最適なのだと感じます。とは言え、オギ原がササ藪に変わらないよう“少し荒れた里山”を保つためにも適度な手入れが欠かせません。田んぼの周辺の湿地をどのように手入れをするか、試行錯誤していきたいと思います。

環境 外観 種子
ススキ
尾根など乾燥地
一株ずつ独立して生えているように見える。
種子の先端に一本の長いノギ(毛のようなもの)がある。
オギ
谷底などの湿地
つながって生えているように見える。
種子の先端に長いノギがない。

ヒキガエル(2012年3月・会報48号)

貫禄のある姿のせいか、昔から魔力を持つ生きものとされ、実際、皮膚から毒を分泌することもあります。触るくらいでは毒を出しませんが(その後は手を洗うこと)、いじめると犬が倒れるくらいの毒を出すそうです。オタマジャクシにも毒があるのか、カルガモなど天敵に食われることが少ないようです。寿命が長く、30年以上生きた記録があるそうです。

3月のひな祭りが過ぎる頃、池でクククッ・コココッとささやくような笑い声が聞こえたら、ヒキガエルが集まってきた証拠です。数匹から数十匹のヒキガエルが団子のようにもつれあって、うどんのようなニュルニュルした卵を産むのです。毎年同じ池で産卵します。5月末~6月半ばには5mmくらいの真っ黒なカエルに育って上陸し、秋にはアマガエルくらいの大きさに育ちます。オスは最低でもトノサマガエルくらい(体長10cm、100g以上)、メスはより大きく(体長13cm、約200g)育たないと繁殖に参加できないようです。おそらく、生まれてから3~4年以上しないと繁殖できないのでしょう。大きなカエルは数が少なく、繁殖個体として重要なようです。庭で大きなヒキガエルを見つけたら大切にしてください。オスとメスでは顔つきが違い、オスは口が尖ったキツネ顔、メスは丸顔のタヌキ顔なのも面白いところです。ヒキガエルは、田んぼがなくても緑の多い住宅地なら生息できるので、環境破壊に強いと言われてきました。しかし、近年は池のある住宅が減り、ヒキガエルが産卵できる場所は激減しています。水辺が残る谷戸の環境は貴重です。

鎌倉の谷戸では、田んぼや水路に産むこともありますが、湿地の水たまりに産む場合が多いので、アカガエルに比べるとやや日陰で、深くて広い水たまりが産卵場所として適しています。谷戸のヒキガエルの産卵を20年以上観察していますが、池と違い、湿地の水たまりは数年で埋まってしまうことがあります。毎年、掘り直すなど手入れが必要です。昔はたくさん見かけたヒキガエルですが、今やヒキガエルの産卵場所を意識的に守るべき時代になったと感じます。また、ヒキガエルが来るような湿地の水たまりは、ホトケドジョウやシオカラトンボの生息地としても役立っていることが分かりました。今、危惧されるのはアライグマの影響で、産卵中のヒキガエルが襲われる事故が起きています。谷戸では安定した産卵場所が2か所あったのですが、一度アライグマに襲われた産卵場所は、ヒキガエルが来なくなりました。今年はどうなるか注目しています。